開業したての頃、私は集患に悩んでいました。
勤務医時代に学んだカウンセリング時の関係構築のトークも、自分のやりたい治療も、患者さんが来なければ意味がない……。開業に向けて一所懸命に身につけた能力を発揮できない現状に、歯がゆさを感じる毎日が続きました。「医院の認知度が低いのだろうか……」と考え、パソコンで簡単なチラシを作って、スタッフと近所を回ってポスティングをしたこともあります。
ですが、手間と時間がかかるわりにコストに見合う効果は出ず断念。
他にもいろいろと試しましたが、どれも期待する効果は出ませんでした。
「リコールも紹介も少ないし、歯科医師に向いていないんじゃないか……」
どうにもできない自分を情けなく思うことさえありました。
……ただ、私は諦めませんでした。
お世話になった勤務医院の院長に合わせる顔がないし、何よりも自分の家族に迷惑がかかると思ったら、なんとかしてこの苦境を打破しなければいけないと。私は勤務医の頃に、空いている時間を見つけては様々な診療科目の勉強会に参加していたので、治療の知識・技術、そして対応の幅には自信がありました。
そして、自分の武器を活かそうという思いから、このような決心をしました。
「症例にこだわらずどんな患者さんも診よう」
しかしどんな患者さんでも診るわけですから、正直大変でした。
普通の歯科医師が嫌がることも全部やります。
夜間の交通事故などの急患の受け入れも、時間と労力のわりに利益が出ない口腔外科レベルの抜歯にも対応。家族サービスより医院経営を優先し、休日だった日曜日も休まずに診療を受けることにしました。
すると、患者さんとの関係性に変化が生まれました。
「よそで治療してもらえなかったからすごく助かるよ」
「全部Yさんで診てもらえてありがたいよ」
という言葉をかけてもらうことが増えたのです。
感謝の声をいただくようになってから、患者さんの助けになりたいという気持ちもますます強くなっていきました。このように私は、机上では学べなかった新しい関係構築の方法を知り、患者さんとの「絆」のつくり方を身をもって学びました。
◆これから開業される先生へ一言!
寝る暇も惜しまず働けとは言いませんが、無理ができるのも若いうちだけです。
すべての患者さんを診る方針に変更した当初は損をしているなと思ったこともありました。
想像以上にキツくて日曜診療を止めようと思ったこともありました。
でも1年くらいで患者さんの母数が増え、徐々にリピートにつながるようになりました。
「継続は力なり」という言葉を体現できたのです。
もし集患の壁にぶつかることがあったら、「○○しかやらない」という固定観念を捨ててもっと柔軟性を持ち、視野を広げてみてください。
その努力はきっと報われて、あなたの医院の基盤固めとなるはずですから。
(インタビューアー:石井)